こんにちは、フィルカル編集部です。
最新刊の『フィルカル Vol.2, No.1』はもう手に入れて頂きましたでしょうか。
通販での年間購読も始めましたので、こちらもぜひご利用ください。
さて、この最新刊にて、高崎将平氏「自由論入門」(全3回)が好評のうちに完結いたしました。
「自由」の問題とは何か、なぜ自由が問題となるかという点から出発し、自由と決定論の両立をめぐる代表的な議論の検討を経て、自由と非決定論との両立性という量子力学も絡んだホットトピックへと至ったこの連載。
一連の議論を通して、現代自由論に興味を持った方も多いのではないでしょうか。
そんな方のために、その先に進むための「読書案内」を著者の承諾のもと、本文より再掲いたします。
ぜひ、ご自身の興味から自由論の議論にご参加ください。
今回は「自由論入門 第1回」の「読書案内」です。
本稿を読んで自由論に興味を持ってくれた読者のために、自由論に関する文献を(邦語・英語文献を併せて)紹介したい(はじめに断わっておくが、今回だけでは紹介しきれない文献も数多くある。それらの一部は次回以降で紹介することができればと思う)。まず日本語で読める入門的な文献としては次の二つが挙げられるだろう。
(1)鈴木生郎、秋葉剛史、谷川卓、倉田剛、2014年『現代形而上学―分析哲学が問う、人・因果・存在の謎』(新曜社)
(2)門脇俊介、野矢茂樹編、2010年『自由と行為の哲学』(春秋社)
(1)は最近出版された現代形而上学の体系的な入門書で、第二章が自由に関する章となっている。コンパクトながら現代自由論の主要な論点を網羅的におさえており、哲学的な議論にそこまでなじみのない方にも自信を持っておススメできる一冊だ(本稿を書く上でもかなり参考にさせてもらった)。今回の記事では取り上げられなかった非両立論の代表的な議論や立場についても詳しく論じられている。
(2)は現代自由論と行為論の代表論文を翻訳したアンソロジーであり、自由論のパートである前半部には、本稿で扱ったフランクファートの二つの論文(「フランクファートの思考実験」に関する論文と、「二階の欲求説」に関する論文、後述の(4)、(5)も参照)がともに収められている。このアンソロジーに収められている論文はどれも現代自由論における最重要文献であり、自由論について本格的に学習したい読者には必読だろう。またこの本の序論は編者の野矢茂樹氏による論文の紹介と自由論・行為論の導入であるが、こちらも平易かつ巧みな語り口で書かれており、自由論の全貌をつかんでもらうのにうってつけと言える。
また現代自由論の代表的論文を網羅的に収めた英語で読めるアンソロジーとして、(3)をぜひとも挙げたい。このアンソロジーの諸論文は編者のワトソンによる良質な導入とともに、自由論を研究したい読者には必読と言えるだろう。
(3) Watson, G. (ed.), 2003, Free Will, Second Ed. (Oxford University Press)
本稿で詳論したフランクファートの議論を英語で直接読みたい! という意欲的な読者は、是非次の二論文に挑戦していただきたい(上述の通り邦訳は(2)に収められている)。
(4) Frankfurt, H. G., 1969, “Alternate Possibilities and Moral Responsibility,” The Journal of Philosophy, LXVI, 23, 829–839
(5) Frankfurt, H. G., 1971, “Freedom of the Will and the Concept of a Person,” The Journal of Philosophy, LXVIII, 1, 5–20
〔編集部注:(4)と(5)は上記の(3)Free Willに収録されている。〕
(4)は「フランクファートの思考実験」を世に知らしめた論文だ。この論文の登場以来、フランクファートの思考実験の可否をめぐって、激しい議論が展開されてきた。その論争を網羅的に収めたのが次の論文集である。中にはテクニカルな議論も含まれており難易度は高めだが、フランクファートの思考実験について考察を深めたい方には有益だろう。
(6) Widerker, D., and McKenna, M. (eds.), 2003, Moral Responsibility and Alternative Possibilities (Ashgate)
(5)はフランクファートが「二階の欲求説」を強力に打ち出した論文だ。二階の欲求説に関しても賛否を問わずおびただしい量の論文がこれまでに生産されているが、ここでは本稿で取り上げた「ジョジョ」の事例を提示した著作として次のものを挙げておこう。
(7) Wolf, S., 1990, Freedom within Reason (Oxford University Press)
また、フランクファートの基本的着想を継承しつつ(7)での批判などを受けて理論を洗練させたものとして、次の著作を紹介しておきたい。
(8) Fischer, J. M., and Ravizza, M., 1998, Responsibility and Control (Cambridge University Press)
最後に、本稿の議論の本線からはやや外れるが、「運命論」、「自由の幻想説」のそれぞれについて一つずつ文献を紹介したい。まず日本語で読める「運命論」の本として、(9)を挙げたい。
(9)入不二基義、2015年『あるようにあり、なるようになる 運命論の運命』(講談社)
本稿の注で言及したスミランスキーの(洗練されたかたちの)自由の幻想説は、以下の彼の著書で展開されている(残念ながら、邦訳はまだない)。
(10) Smilansky, S., 2000, Free Will and Illusion (Oxford University Press)